旬素材の産地から
取材日2025年10月
大館市地区 「大館とんぶり」
大館が生んだ畑のキャビア
フランス人も魅了した
「大館とんぶり」は
優れた栄養価のスーパーフード
● 大館とんぶり
アカザ科ホウキギ属の一年草であるホウキギに実る成熟果実を加工した「大館とんぶり」は、優れた栄養価や効能、そしてプチプチとした食感から「畑のキャビア」などと呼ばれています。ホウキギの原産地は中国や南アジアなどで、日本には平安時代に渡来。幹や小枝を箒(ホウキ)の材料、果実を薬用として活用するために日本全国で栽培されていましたが、現在は大館市のみで生産が続けられています。江戸時代からホウキギの実を食用とする習慣があったと伝わる大館市周辺。加工に手間がかかるとんぶりですが、大館では設備の充実によって加工作業の効率化を実現し、特に皮むきの工程は大館だけで使われている特殊な機械が開発されたことで大幅に作業時間が短縮されました。かつては冬期のみの販売でしたが真空パックやビン詰めなどにより現在では通年販売も実現し、2017年5月末には秋田県大館市特産「大館とんぶり」がGI(地理的表示保護制度)に、2025年3月には「大館のとんぶり製造技術」が登録無形民俗文化財に登録されました。正に「必要は発明の母」ですね。
生産地紹介
秋田県大館市
ハチ公からきりたんぽまで
特産品の宝庫・大館市
秋田県北部を流れる米代川中流域に位置する大館市。四方を山に囲まれた盆地で、北部は青森県と県境を接しています。多くの名産品があることでも知られ、炊き立てのご飯をすりつぶして杉の串に包むように巻きつけて焼いたきりたんぽは大館・北鹿地方が発祥の地。東京の渋谷駅にある銅像でも有名な忠犬ハチ公は大館市大子内で生まれた秋田犬のオスで、大館駅前の観光交流施設「秋田犬の里」のハチ公像など、市内にはハチ公や秋田犬をテーマにした銅像やモニュメントが数多く設置されています。国指定天然記念物の比内鶏と声良鶏、秋田県指定天然記念物の金八鶏の総称である秋田三鶏は大館地方で古くから親しまれてきた家禽。稲作が盛んで田園地帯が広がり、秋には山々を彩る美しい紅葉も楽しむことができます。
INTERVIEW
唯一の生産地である大館から
海外にも「大館とんぶり」は出荷中
大館市でとんぶりを育てている川口 由政さんと、
JAあきた北 販売営農部の安部 泰史さんにお話を聞きました。
Q. 大館でしか栽培されていない「大館とんぶり」。みなさん普段から食べているのでしょうか?
安部さん
地域の生産者の小学生や中学生が参加して原料となるホウキギの実の収穫体験を行うなど、この地域では知名度もあるし、みなさん食べていますね。収穫体験は10年以上行なっています。
大館とんぶりはどんなものにも合うね。俺は納豆や長芋、ツナなどにパラパラとのせて食べる。栄養や効能もあるし、本当においしいよ。でも、関西や九州に研修や旅行で行ったときにみんな知らなかったのは残念だったな。サンプルを持っていったので、その場で食べ方を教えたんだ。
安部さん
現在は東京はもちろん大阪にも出荷しています。フランスにも出荷していて、ヴィーガン(完全菜食主義者)の人がキャビアの代わりに食べていると聞いています。
Q. 今年の大館とんぶりの出来はどうでしょうか?
今は収穫の段階だからなんともいえないかな。
安部さん
量は採れていますが商品になるまではまだまだ工程があるので、製品率がどうなるのかはわかりません。
まず刈り取りをして、収穫した実を乾燥機で水分が抜けるまで乾燥させる。その後に葉などの不純物を取り除いてから、加工所に持っていって釜で煮るんだ。煮た実を1日ほど寝かせてから、今度は皮むき。その後に洗いをくり返して、また不純物を取り除いたら水切り。最後にふるいにかけて未完成なものや不純物を取り除いたらやっと完成。そして袋詰めや瓶詰めになって出荷だ。煮てからだけでも2~3日はかかるよ。
安部さん
不純物は目視でピンセットを使って取り除くんですよ。
Q. 栽培から出荷までの工程で最も大事なことは?
やっぱり土寄せだな。1回目の土寄せがきれいにできれば2回目をやらなくても大丈夫。2回やれば雑草はもっと生えてこないようになるけど、作業が倍になるから大変なんだ。今年は1回でも大丈夫だったな。
安部さん
ホウキギは種まきから定植まで平らな畑に植えていますが、その後、通路の除草と倒木防止のための土寄せを行うんです。
収穫のときに実が湿っているかどうかを見極めることも大事だな。雨のあとで皮膜が湿っているとなかなか乾かないからコンバインの脱穀機に詰まってしまうんだ。栽培以外では収穫後の釜で煮る段階かな。毎年1年生のようなもの。今年の実はどうかなとまず試しに1回煮てみて、その日によって温度や時間を調整していく。そのバランスが大事。長年の経験でなんとなくわかってきたけど毎年・毎日異なるから、今でも失敗することがあるね。
Q. 大館とんぶりの栽培で大変なことはどんなことでしょうか?
高温障害とかも大変だけど、一番怖いのは台風だな。風に弱いから強い風が吹くと実がボロボロと落ちてしまうんだ。台風が来たら全滅。実が全部落ちて土の上が白い絨毯みたいになっちゃうんだよ。
安部さん
比内地区(大館市南東部)は周囲を山に囲まれているのであまり強い風が吹くことがありません。しかし台風が来たときには対策ができないので、もう祈るしかないんです。それでもここ数年は台風は来ていませんね。
知名度の上昇とともに生産者も増加
今後は大館とんぶりを
全国へ、世界へ
Q. 機械化される前はさらに大変だったようですね?
俺が始めた頃はまだ手植えだったし、収穫も鎌で手刈りしていたからね。今はどちらも機械になったから良かったよ。収穫のときなんて刈る人、刈ったものを運ぶ人、脱穀する人など、5人で作業していたのが、今は一人だからね。収穫後も昔は煮るだけでなく、皮剥きから袋詰めまで家でやっていたんだから。子どもの頃は出来上がったものを袋に入れて口に輪ゴムを巻いて留める作業を毎日していたんだよ。今も地下水を大量に使った洗いの工程は手作業だから大変なままだけどね。ここも機械化されたらいいんだけどな。
Q. 大館とんぶりには害虫や病気が発生しますか。その場合に農薬はどのように使っていますか?
安部さん
大館とんぶりは使える農薬が少ないんです。害虫に使えるのは公園や庭園の手入れにも使われているトレボン乳剤だけで、あとは生物農薬のBT剤を使って予防しています。そして除草剤として多く使われているバスタとトレファノサイド乳剤。しかし病気関係に使える農薬はありません。
一番厄介なのはヨトウムシだな。土の中や草むらから出てきて実を食べたり汁を吸ってしまう。やられたら茎まで真っ赤になってしまうんだ。見つけたらすぐに駆除しないと手遅れで、数年前に県内にヨトウムシ(ハスモンヨトウ)が大量発生した時、「天気がいい明日やろう」と思って次の日にトレボン乳剤を使おうと思ったら、畑の半分以上がやられてしまった。2日待ってたら全滅だったね。本当に恐ろしいよ。
安部さん
ヨトウムシ以外ではコガ(ツツミノガ)が発生します。以前はコガだけだったんですが、最近はヨトウムシが増えてきました。
でもトレボン乳剤は2回しか使えないんだ。定植して30cmくらいまで成長したらもう発生してくるけど、その後も出てくる可能性があるから使うタイミングを考えなきゃいけない。2回使ったあとに出てきたらもう終わりだからドキドキだよ。除草剤は土寄せがうまくいけば使わないときもあるね。
Q. 大館とんぶりの栽培や収穫などでやりがいやワクワクする瞬間を教えてください。
やっぱりたくさん売れて、多くの人に食べてもらえると嬉しいよね。コロナ禍のときはJAさんも出荷するところが少なくなって大変だったと思う。生産者も4戸まで減っていたのが若い人が入ってきて今は8戸になったので、食べる人が増えればたくさん出荷できるようになる。大館とんぶりはまだ全国まで広がっていないので、知ってもらえたら嬉しいね。
生や真空パック、瓶詰めなど、さまざまなタイプの大館とんぶりが販売されています。
Q. すでに大館とんぶりを知っているファンやリピーターも多いと思います。
実は糖尿病の予防や改善の効果が期待できるサポニンが含まれていて、ビタミンやミネラルなどの栄養価、そして食物繊維も多く含まれています。俺たちは頑張って作って、頑張って出荷しますので、是非これからもどんどん「大館とんぶり」を食べてください。よろしくお願いします。
とんぶり 栽培スケジュール
豆知識
From CLジャパン
「とんぶり」の由来
秋田県の県魚であるハタハタの卵「ぶりこ」は、唐から伝来したことから「とうぶりこ」と呼ばれていました。それが訛って「とんぶり」という名前になったと言われています。
皮むきの機械化は大館だけ
収穫して乾燥まで行った実は加工所へ。以前は手作業で行っていた皮むきが、大館では昭和50年以降に機械化されました。その機械は大館独自のもので、作業工程は企業秘密となっています。
ヨトウムシ類
ヨトウガなどの幼虫で、主に夜に活動することから「夜盗虫」と呼ばれています。老齢幼虫になると4~5cmほどに成長。食欲旺盛で雑食性のため、多発すると写真のように食害で株全体の茎葉と種子がなくなり枯れたようになります。
写真提供:秋田県北秋田地域振興局農業振興普及課
コガ(ツツミノガ)
種類によって大きさは異なるものの多くのものが1cm以下。ホウキギの実に幼虫の筒巣(体を守るために作る筒状の巣)が混入してしまうことがあるため、加工の最終段階でピンセットを使っての除去が必要となります。
写真提供:秋田県農業試験場
さまざまな料理に使える大館とんぶり!
自分ならではのレシピも考えてみよう
魚卵のような淡い緑色の見た目と淡白な味で「陸の数の子」や「畑のキャビア」と呼ばれる大館とんぶりは、さまざまな料理に活用できます。とろろや豆腐にのせてもいいし、ツナやキュウリなどに和えれば簡単に一品料理が完成。ごはんに混ぜ合わせておにぎりにしたり、たらこと一緒にパスタに和えれば2つのプリプリとした食感が味わえます。漢方名は「地膚子(じふし)」で昔から強壮強精薬として用いられているほか、サポニンを含むため去痰剤や強心剤としても利用されている大館とんぶり。さまざまなレシピに活用してみましょう。
