旬素材の産地から
取材日2025年10月
日田市 日田の梨
希少な「晩三吉」を受け継ぎながら、
甘くジューシーな「日田の梨」を
世界で愛されるブランドに
● 晩三吉(おくさんきち、ばんさんきち)
晩秋に収穫される「晩三吉」は、現在では生産量の少ない希少な品種。その由来にはいくつかの説がありますが、江戸時代に発見され、明治時代に日本の各地に広まったといわれています。今では全国の梨収穫量に占める割合はわずか1%未満に減少。そして、その多くが大分県日田市で栽培されています。
晩三吉の特徴は、1玉あたり約700gという大きさ。サクサクとした食感、たっぷりの果汁、上品な甘味とともに、晩三吉特有のほのかな酸味が感じられる奥深い味わいです。また、貯蔵性に優れているため、晩秋に収穫した梨を長期保存し、お正月を超えて春まで楽しめる梨として珍重されています。
生産地紹介
大分県 日田市
江戸幕府の天領として栄え、
歴史的な街並みが今も残る
九州の「小京都」。
九州のほぼ中央、大分県西部に位置する日田市。周囲を山々に囲まれた盆地であり、筑後川上流の三隈川が流れることから「水郷(すいきょう)」と呼ばれています。江戸時代に幕府の直轄地である「天領」として栄え、かつての面影を伝える町並みが今も豆田町(まめだまち)に残り、海外からも観光客が訪れています。市の面積の8割以上を林野が占め、「日田杉」の産地として有名ですが、豊かな自然と寒暖差の大きい盆地特有の気候を活かした果物や野菜の栽培も盛んです。
夏から冬までリレー出荷で9品種!
海外でも愛される「日田の梨」
日田市で梨の栽培が始まったのは今から110年以上前のこと。1911年、太郎良峰次郎氏が関地区(※1)に「晩三吉」を植栽、1917年には福沢徹次氏が杷木山地区(※2)に「晩三吉」を植栽。その2年後の1919年には、関地区で20戸の栽培農家による集団栽培がはじまったという記録が残されています。
昼と夜、夏と冬の温度差が大きい盆地特有の気候、良質な水に恵まれた環境のもとで育った、甘くみずみずしい「日田の梨」。現在は、大分県を代表するブランドに成長しています。夏の「幸水」にはじまり、晩秋~冬の「晩三吉」「豊里(ほうり)」まで9品種(確認中)をリレーのように出荷。2004(平成16)年から海外への輸出がはじまり、現在は「新高」を中心に台湾、香港、タイ、ベトナムなどでも「日田の梨」が販売されています。
※1,2:日田市の中心部から見て北西の方向に位置。福岡県との県境のエリアで、筑後川(三隈川)の源流域にあたります。
「豊里(ほうり)」は大分県オリジナル品種
大分県農業技術センター果樹部(現・大分県農林水産研究指導センター果樹グループ)が、「愛宕」に「新興」をかけあわせて採種、育成し、2007(平成19)年に品種登録。日田市を中心に栽培されており、上品な甘さ、濃厚で芳醇な食味。優れた貯蔵性が特徴です。
クリスマスの頃に食べ頃を迎えるため「ホーリーナイト(聖夜)」にかけて名付けられました。
選果場に集まった梨を1個1個、
人の目と手、そしてセンサーでチェック
日田市では、1965(昭和40)年「日田市農協なし部会」が結成され、1970年代以降、梨円の造成や選果場の整備が進み、梨の産地として目覚ましい躍進を遂げてきました。
現在は「JAおおいた日田梨部会」の名称で、7グループ・合計77名の生産者が情報交換や勉強会を行い、各生産者が収穫した梨の味わい、色、硬さなどにバラつきが出ないよう、共通の認識をもって取り組んでいます。また、日田梨の魅力をより多くの人に知ってもらうための広報活動や直売所運営なども行っています。
JAおおいたが運営する梨の選果場は、2000(平成12)年に、県内初となる、光センサーを利用した非破壊選果機を導入。梨1個1個がバーコードで管理され、「糖度」「熟度」「酸度」「果色」「水浸」「重量」の6項目を測定し、出荷等級が決定されています。また、ここで集まったデータは生産者にフィードバックされ、安定した品質の維持と、さらなるおいしさの向上に役立てられています。
生産者が入荷した梨はコンテナのまま、リフトで2階の選果場へ運ばれる。
晩生の品種は害虫から守り、見た目を美しく保つために袋が被せられているため、除袋作業を行う。
人の目と手で大きさ、形、キズを確認し、赤秀(あかしゅう)、青秀(あおしゅう)、無印に選別した後、バーコード付きのトレイにのせ、光センサーで検査。
規格別に箱詰めされた梨を、目視で最終確認。市場に出回らない規格外の梨は、加工用としてさまざまな食品・飲料に活用されている。
INTERVIEW
地域の生産者の想いを
ひとつに取り組む
安心、おいしい「日田の梨」づくり
日田市で36年、梨づくりに携わり、
「JAおおいた日田梨部会」の部会長を務める堀 真剛さん、
JAおおいた 西部営農経済センター営農課の髙野 智樹さんにお聞きしました。
Q. 夏から冬まで、たくさんの品種を出荷されているんですね
堀さん
日田梨部会では9品種を手がけています。日田は、もともと「新高」など、9月下旬以降に収穫する晩生種を中心に発展してきた産地です。早生種の幸水、豊水も手がけるようになって3、40年経ちますが、多品種を扱うのは家族経営の生産者が多いこの地域に合っているんでしょうね。
1品種だと、収穫のタイミングを逃さないよう大人数で作業しなければならない。でも、早生と晩生を組み合わせれば、時期をずらしながら収穫できるので少人数で対応しやすい。袋かけの時期などに人を雇う場合もありますが、基本的に家族だけという生産者が多いんですよ。
今、日田梨部会のメンバーは77名いますが、20名ほどが30代。若手が活躍しているのは珍しいかもしれませんが、それでも生産者数は以前に比べると減少していますね。
Q. 今年、「日田の梨」の出来栄えはいかがでしたか?
髙野さん
猛暑の影響は大きいですね。県内最大の出荷量で知られる日田市ですが、年間の総出荷量が一昨年は約2,800tだったのが、昨年は約2,200tになりました。
堀さん
「日田の梨」全体の出荷量は昨年並みになりそうですが、今年も特産品種のひとつ「新高(にいたか)」の落ち込みは激しかったですね。春先に低温が続いたこと、夏場の高温で内部障害が出やすくなってしまったことが影響しました。以前は、雨量が少ない時に同じような症状が出ていましたが、最近は高温の影響を受けて、作り方がより難しくなってきたと感じています。
「新高」は、大きくて丸い形が月に似ているということで、台湾や香港の中秋節(※)に人気があり、出荷量が多い品種なんです。
※中秋節: 旧暦8月15日におこなわれる中国発祥の東南アジアの伝統行事。台湾の中秋節は、月をめでる祝日で、家族や友人と月餅を楽しむ風習が特徴です。
Q.猛暑や大雨で、梨の味に影響は出ましたか?
堀さん
高温で梨の味が落ちるということはないんです。今年は梅雨明けが早く、雨量が少なかったため、果実に栄養が入り込みやすくなって糖度が高くなりました。近年では稀な位、甘くておいしい梨になったんですが、雨が少ないと小玉になってしまうのが難しいところですね。「新高」など、大きさを楽しみにされる方も多いので、甘くなれば小さくても良いというわけにはいきませんから。
Q.豪雨による農園の被害も気になるのでは?
堀さん
2005(平成17)年だったかな?豪雨災害が発生して、日田市も川が氾濫したり、山が崩れたり、地域が孤立しました。園地を失ってしまった方もいる。その後も毎年のように集中豪雨に見舞われていますね。日田梨部会は、2017(平成29)年の集中豪雨被害の後、色々な関係機関とともに平坦な土地に園地を整備し、「日田梨リース団地」として梨を栽培するプロジェクトを立ち上げて活動してきました。今年でようやく一区切り迎えたところです。
Q.病害虫の対策の農薬を、どう活用なさっていますか?
堀さん
りんごや梨は、農薬を適切に使って管理していかないと安定した収穫を維持できない果実です。りんごを農薬を使わずに栽培すると、一般的なやり方で100個収穫できていたところが1,2個になってしまうと言われています。梨の場合は、もっと少ないかもしれないですね。
日田梨部会では、独自に農薬の使い方について、年間の基本的なスケジュールを作り、メンバーで共有しています。また、重点事項として病害虫が発生した場合にどうするかもわかるようにしています。「日田の梨」は海外にも輸出されているので、国内とは違う農薬使用の基準に対応しなければなりません。特に台湾は防除暦(※)が厳しく、新しい農薬は基本的に使えなかったり、昔から普及しているものでも使えないものがあるので、その基準に合わせて管理しています。
※病害虫に応じて、使用できる農薬の種類、希釈倍数、使用量、使用時期が示されています。
Q.対策として特に気をつかうことはありますか?
堀さん
春先でいうと「黒星病」。一度出てしまうと1年続きかねないので一番気を使います。梅雨時や夏はダニ、カメムシ。カメムシは、来るところと来ないところがはっきり分かれていて、一回寄ってきてしまうと、その後も通り道になってしまう。園地を巡回して、最初のうちに防いでおくのが夏場の重要な仕事のひとつになっています。
その他の病気は、「えそ斑点」「赤星病」などありますが、広がってしまうと本当に困る、出してはいけないのは「輪紋病」ですね。黒星病は、収穫した梨の中に病気がついた果実が混じっていても、他の梨に移ることはないんです。輪紋病の場合は、ひとつ見逃して箱の中に入れてしまうと、他の梨に移って腐ってしまう。そのまま出荷してしまうと信用問題になりますから、そこは気をつけています。
110年を超える
歴史と伝統を受け継ぎ
ブランド価値を高めていく
Q.梨栽培のやりがい、ワクワクすることはありますか?
堀さん
やっぱり、食べた人の“おいしい!”っていう声を聞くこと。他の食べ物や飲み物に加工してとかじゃなく、梨そのものの味としておいしかったと言ってもらえるのが一番じゃないかな。販売促進でいろんなところに行く機会があるので、食べた人から直接声をかけてもらえるとうれしいですね。
Q.今後に向けての課題は?
堀さん
まずは高温対策。JAさんや農業研究試験場と連携しながら情報を集めて、何かしら手を打たないといけません。それと年間を通しての降水量は以前とあまり変わりないんですが、降る時期、降らない時期の量に10倍位の差があって、特に8,9月の雨量が少なくなってきた印象があります。気候に左右されてしまうのをなんとかできると良いですが、難しいですね。
髙野さん
高温、線状降水帯発生時の豪雨など、生産者のみなさんがお困りになっているのを実感しています。JAとしても対策への取り組みを一緒に進めて、大分の特産品である「日田の梨」のブランド力をもっと高めていきたいと思います。
Q.最後に、改めて「日田の梨」のPRをお願いします
堀さん
九州の梨産地は、日田の他に福岡県の八女、佐賀県の伊万里があります。その2つはほとんどの品種が「幸水」。全国的にみても夏から冬まで多品種を出荷している地域、希少な品種「晩三吉」を団体として出荷しているのは日田だけなんです。生産量が減っている「晩三吉」や大分のオリジナル品種「豊里」は、残念ながら入手できる地域が限られますが、地域の名前をブランドとしている「日田の梨」を、全国の方や海外の方にもっと知ってもらいたいと思います。
「晩三吉」 栽培スケジュール
袋をかけて果実を守ることで、農薬使用量も減らせます。
豆知識
From CLジャパン
梨が病気にやられるとどうなるの?
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黒星病
カビ(⽷状菌)によって伝染する病気。 葉に褐⾊、または⿊っぽい斑点が現れ、徐々に⻩⾊になって葉が落ちる。果実に広がると、商品価値の低下につながる。 -
写真提供:日本植物防疫協会
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赤星病
「葉」の表面に黄色(オレンジ色)の小さい病斑が点々と現れる。進行すると葉が落ちやすくなり、果実にも斑点が現れる。 -
写真提供:日本植物防疫協会
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えそ斑点病
葉に3~5mmの褐色で多角形の斑点が現れ、やがて灰白色になる。果肉の糖度が低くなり、肥大不良となることがある。 -
写真提供:アグロ カネショウ株式会社
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輪紋病
熟した果実にイボのようにへこんだ同心円状の模様が現れる。感染した場合、収穫時期まで判断が難しいため袋がけや適切な防除が有効 -
写真提供:アグロ カネショウ株式会社
四季を通して「日田の梨」
食べ比べて、
お気に入りを見つけよう!
日田梨部会では、夏から冬まで9品種を出荷。それぞれの品種に個性があり、みずみずしくシャキッとした食感、甘みが強くやわらか、上品で爽やかな酸味など、その違いに驚くはず。いろいろな梨を食べ比べて、あなた好みの品種を見つけてみませんか?


